組織の闇と人間の業に震える——『対馬の海に沈む』
昨日から一気に読み終えました。読後、あまりの重さにしばらく言葉を失ってしまった一冊、ノンフィクションの傑作『対馬の海に沈む』です。
長崎県、人口わずか3万人の対馬で、全国トップクラスの成績を上げ続けていたJA共済の伝説的営業マン、西山氏。彼がなぜ、自ら命を絶たねばならなかったのか。そこには、組織というものの恐ろしさと、人間の「業」がこれでもかと描き出されていました。
「親分肌」の功罪
西山氏という人物は、非常に魅力的な人だったようです。 アニメ『ONE PIECE』のルフィのような親分肌で、同僚には過酷なノルマ達成のために実績を分け与え、飲食を共にする。顧客には共済金を過大に支払うなどの便宜を図る。
驚くべきは、彼が亡くなった後の葬儀に600人もの参列者が集まったという事実です。不正に関与していた側面がありながらも、彼を悪く言う人はおらず、むしろ慕われていた。この「歪んだ人望」に、私はまず戦慄を覚えました。
組織が教えた「不正の教科書」
しかし、彼を破滅へと導いた「共済契約を拡大再生産するための不正な手法」を、他ならぬ上部団体が指南していたという点に、この事件の真の闇があります。
巨大なJAグループという組織が、数字(ノルマ)という絶対的な正義を追求するあまり、現場に不正を「文化」として植え付けていた。西山氏はその巨大な舞台の上で踊らされていたに過ぎなかったのかもしれません。彼がその舞台から降りようとした瞬間、精巧に回っていた歯車は一気に狂い始めました。
「被害者なき犯罪」と、梯子を外す人々
この事件の最も残酷な側面は、「直接的な被害者がいなかった」という点です。
- 名義貸しをした住民: 事故がなくても共済金という利益を得る。
- JA組織: 全国トップの輝かしい実績。
全員が「Win-Win」で潤っている間は、それは犯罪ではなく「地域の絆」として機能していました。しかし、西山氏がお金をばらまけなくなった途端、周囲の協力者たちは一斉に彼から離れ、梯子を外したのです。
まさに「金の切れ目は縁の切れ目」。
経営者として思うこと
「人間の業」とは、そして「組織」とはこれほどまでに恐ろしいものなのか。 本書は、単なる不正事件の告発ではありません。真面目で優秀な人間が、組織の論理に飲み込まれ、最後は誰にも助けられずに孤立していく過程を冷徹に描き出しています。
我々経営者も、一歩間違えれば「数字」という魔物に足元をすくわれかねません。組織の健全性とは何か、本当の意味での「人との繋がり」とは何か。
あまりにも深く、そして重い教訓を与えてくれる一冊でした。ぜひ、皆さんも手に取ってみてください。

